研究室について
生活経営学と経済学で探る、
暮らしと社会の新たな可能性
髙橋研究室では、生活経営学のアプローチに基づき、個人や家族が有する知識・体力・時間・エネルギー・経済力・社会関係資本といった多様な資源を活用し、生活環境を「より自分らしく、より望ましいウェルビーイング空間」へと発展・再構築する方策を探究しています。
近年は、OECD型プロセスモデルに基づく「金融リテラシー研究」を主題に据え、幼児から高齢者まで各ライフステージにおける金融経済教育のあり方を、実験・調査・観察を通して検討しています。その延長として、「わからない(Don’t Know)」という回答傾向と昇進意欲との関連性に関する研究も展開しています。
また、新潟大学在職中より継続している女子大学生の自己成長促進モデルの開発や、既婚男性の家事参加促進に関する研究にも取り組んでいます。これらの学際的な研究活動を通じ、生活経営学の深化を図るとともに、男女共同参画社会の実現に資することを目指しています。

研究内容
金融リテラシーに関する研究
概要
OECDが提示する金融リテラシーのプロセスモデル、つまり「知識(knowledge)」が「意識・態度(attitudes)」を形成し、それが「行動(behavior)」に影響を与える、という枠組みを踏まえ、OECDが提示する育成すべき資質・能力を意識して、各ライフステージに応じた金融経済教育の実態と課題を検討しています。
具体的には園児を対象に「お店屋さんごっこ」の売上げを4つのスロットがある貯金箱(Piggy bank)に分類する活動を通じて金銭管理の基礎に触れさせ、小学生にはそのアプリ版(電気通信大学と共同開発)を用いたお小遣いの記録活動を実施しました。
こうした実践的アプローチに加え、中学生・高校生には貯蓄や生活設計に関する“deposit literacy”、大学生には奨学金やクレジットの利用・返済に関する“debt literacy”、社会人には資産形成・運用に関する“invest literacy”、そして高齢者には特殊詐欺予防に関する“protect literacy”をテーマとしたアンケート調査を行い、それぞれの規定要因の分析を進めています。
本研究は、ライフステージごとの金融リテラシーの涵養に向けた教育的介入の有効性と、その実装上の課題を実証的に明らかにすることを目的としています。
目指す方向性
知識の定着にとどまらず、金融的意思決定における主体性を育み、実生活における行動変容へとつなげる教育実践のあり方を探究しています。さらに、獲得された金融リテラシーを基盤として、金融的自立の確立やアントレプレナーシップ(起業家精神)の醸成に資する教育的支援の可能性を追究しています。

(アプリ説明、1225平野晴子)

研究業績
- 髙橋桂子(2025)幼児から高齢者を対象とした金融リテラシー研究の実践:金融capabilityの育成を目指して、実践女子大学下田歌子記念女性総合研究所年報、11、1-12.
- 髙橋桂子(20242)経済学を専門としない大学生のための新規講義「実践教養講座c:大学生と金融リテラシー」:概要と履修生の反応、下田歌子記念女性総合研究所年報、10、17-27.
- 髙橋桂子・夏野星奈(2023). 奨学金の借入金額の決定に「極端回避性」、「金融自己効力感」と「時間割引率」はどのような影響を与えるか:高校生を対象に、下田歌子記念女性総合研究所年報、9、25-41.
- 髙橋桂子・阿部信太郎・猪瀬武則(2022). 金融知識、金融態度や自己コントロールが金融行動に与える影響:日本、アメリカ、韓国の比較、経済教育、41号、11-17.
- Abe, Shintaro, Takahashi Keiko, & Inose, Takenori. (2022). Financial Literacy among Japanese University Students: Current State and Issues, The Bulletin of Josai International University, 30(1), 41-54.
- 髙橋桂子(2021). 4択問題を大学生はどのように選んでいるか:米国「金融リテラシーテスト」を素材に、経済教育、40、53-60.
- Takahashi Keiko, Abe, Shintaro, Inose, Takenori, & Kanie, Noriko. (2021). The effects of financial knowledge and attitudes on financial behavior: evidence from Japanese university students. Bulletin of Jissen Women’s University, Faculty of Human Life Sciences, 58, 25-30.
- Takahashi Keiko, & Fujiwara, Saki. (2021). A financial behavior and an impact of influencers among Japanese university students, Consumer Interests Annual Volume 67. (proceedings)
「わからない(Don’t Know)」と昇進意欲の関連
概要
リテラシー調査では「正答」「誤答」「わからない」の三択形式が用いられますが、「わからない」という選択行動に注目した実証研究は限定的でした。「わからない」は女性に多く観察されることもあって、知識欠如、関心の希薄さ、認知的コスト回避といった個人的要因によって説明されることが多いです。
しかしながら年収との関連で回帰分析をおこなった結果、正答数よりもDK数の方が説明力を持つことが多く、正答数だけでは金融リテラシーを十分に測定できない可能性が示されました。これは、金融経済教育において、知識の正確さや正解を教えることだけでなく、問題にどのように向き合うかという思考過程を重視した教育を行うべきであることを示唆しています。授業環境の構築、昇進意欲との関連といった観点から再検討を行っています(この研究は2024年度から始まりました)。
目指す方向性
教育的実践や調査場面における「わからない」回答の発現プロセスを解明し、その頻度を低減させることです。そして回答者の認知的主体性および判断力の向上を図る理論的・実証的基盤の構築を目指しています。

研究業績
- 髙橋桂子・野中日向(2022.03).「日常的なリーダーシップ」行動の認識が自信に及ぼす影響:経験サンプリング法による検討、年報、8、57-76.
父親の家事参加の促進
概要
仕事生活と家庭生活を共に担うdual career dual carerといわれる共働き夫婦が増加する中、女性が結婚・出産後も正社員として継続就業するためには、育児と同様、家事にも男性が継続的に関与することが求められます。保育園に子を預けている父親をとした調査から、自分が掃除・洗濯・料理といった家事をする、もしくは子と一緒に行うほど、子の非認知能力が高いという関係が確認されました。
目指す方向性
高校家庭科男女共修世代を対象に、「繰延不能家事」および「名もなき家事」に着目した定量・定性調査を実施し、これまで可視化されにくかった家事労働の実態と認識に関する新たな知見の理論的基盤を構築することを目指しています。
研究業績
- Takahashi Keiko, Kuramoto Ayako, & Kasai Naomi. (2023), How does father's involvement in child care and household work affect the evaluation of infant children's non-cognitive abilities?: Analyses with three-year pooled data, Proceedings of World Research Forum for advances in Science and Engineering (WRFASE) International Conference in Singapore, Feb' 2023, 38-40.
- Takahashi Keiko, Kuramoto, Ayako, & Kurokawa, Kinuyo. (2021). Japanese fathers’ intention to cooking; associations with maternal gatekeeping, family money management, and learning experiences of opportunity cost, Bulletin of Jissen Women’s University, Faculty of Human Life Sciences, 57, 67-72.
- Kurokawa, Kinuyo, Takahashi Keiko, & Kuramoto, Ayako. (2020). Is family life education at school in Japan effective for Japanese fathers? focusing on co-educational home economics education and intention to do household work, Bulletin of Naruto University of Education, Faculty of Education, 35, 343-349.
- Kuramoto, Ayako, Kurokawa, Kinuyo, & Takahashi Keiko. (2020). Fathers' attitudes toward cooking and Family Life Education in Japan. Studies in Human Sciences, 16(1), 167-174.
- Nakano, Yumiko, & Takahashi Keiko. (2014). How to balance work and family: living apart, working together of career-oriented married couples, The Proceedings of the 47th Hawaii International Conference on Social Sciences.
- Takahashi Keiko. Kuramoto, Ayako, & Kusano, Atsuko. (2008). Current state of dual-career couples with children in Japan: regulating factors of working mothers "doing the challenging work," effects and relation to family life, Memoirs of the Faculty of Education and Human Sciences, Humanities and social sciences, 10(2), 117-122.
- Kubo, Keiko, Kuramoto, Ayako, Kusano, Atsuko, & Takahashi Keiko. (2007). Actions taken for work-family balance by full-time dual-careers in Japan, The Proceeding of the 14th ARAHE international conference, 116-121.
研究活動
動画紹介
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【栗原久先生】活かす銀行預金と雪だるま
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【栗原久先生】銀行預金は元本保証というけれどーインフレとお金の価値-
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【栗原久先生】資産形成とかけて体力づくりと解くー長期・分散・積立-
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【栗原久先生】コスト意識を高めるには隠れたれたコストに留意しよう-機会費用とサンクコスト-
主な講演・出張授業など
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J-FLEC はじめてのマネーレッスン 教職員ご自身のための家計管理と資産形成セミナー「はじめに ~新学習指導要領と金融経済教育~」
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日野市生涯学習支援課主催ひの市民大学 大学連携コース「金融リテラシー」
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令和4年度宮城県高等学校家庭科研究協議会「高等学校家庭科における金融教育」
質問受付
髙橋研究室では、研究に関するご質問を受け付けています。
研究内容に興味のある方や、進学・共同研究を検討されている方からのご質問を歓迎しております。
内容は問いませんので、関心のある方は下記のGoogleフォームよりお気軽にお寄せください。ご入力いただいた内容を確認の上、担当者よりご連絡いたします。
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ゼミナール紹介
これまでに、新潟大学で約80名、本学で約70名の学生の卒業論文指導を担当してきました。大学とは、それまでとは異なる空間に身を置き、未知の世界に踏み出し、挑戦し、ときに傷つきながらも、自分自身を再発見・再認識する場であると考えています。果敢に挑む学生たちに寄り添い、一人ひとりの可能性と個性を信じ、丁寧な指導を心がけています。
ゼミでは、日常生活の素朴な疑問を大切にし、アンケート調査や実験を通してその解決に取り組み、より良い提案を導くことを目指しています。SPSSやHADを用いた多変量解析を行うほか、毎年少しずつ分析手法を高度化させることを意識しています。近年は、量的研究に加えて実験的手法にも取り組んでおります。
研究室のモットーは、ゼミの活動や雰囲気の中から自然と生まれてきます。これまでに「一週間前行動・礼儀正しく・メンタル強く」「女は度胸、女は愛嬌」「チャレンジあるのみ!」「日常の行動が信頼をつくる」「可能性の芽を見つけよう、育てよう、そして伸ばすぞ」など、前向きで多様な言葉が挙げられてきました。こうしたチャレンジ精神にあふれるゼミ生たちが集う場を大切に、ホワイトボードを活用しながらゼミ活動に取り組んでいます。
歴代ゼミ長(本学)
木下 夢芽/今井 綺星/伊藤 愛/大石 美月/大須賀 彩歌/石岡 麻奈/野中 日向/矢嶋 雪乃/小林 史奈/川島 優依/澁谷 友宇子
主な卒論テーマ(過去5年)
- キャッシュレス社会における幼児の金銭感覚:おみせやさんごっこを通じた金銭感覚と金融リテラシーマップの構築
- 先延ばし傾向に制御焦点とself-nudgeが与える影響の検討
- 幼児・児童の分配行動と認知的発達の関連に関する研究
- 大学生のクレジットリテラシー:自己効力感とQR コード決済との関連性
- 金融自己効力感や時間割引率が高校生の奨学金借入行動に与える影響
- 購入型クラウドファンディングを行う動機に関する研究:ヴィネット調査を用いて
- 大学生の金融行動はインフルエンサーの影響を受けるのか:同調行動から考える
- 日常的なリーダーシップ行動の認識が自信に及ぼす影響:経験サンプリング法による検討
主な就職先(過去5年)
東京都教育委員会/千葉県教育委員会/埼玉県教育委員会/株式会社秋田銀行/三井住友トラスト・システム&サービス株式会社/明治安田システム・テクノロジー株式会社/富士フイルムシステムサービス株式会社/シンフォニアテクノロジー株式会社/コニカミノルタジャパン株式会社、横河レンタ・リース株式会社/JR東日本メカトロニクス株式会社/株式会社オールアバウト/株式会社エイチ・アイ・エスなど
お問い合わせ
〒191-8510
東京都日野市大坂上4丁目1-1
実践女子大学生活科学部
髙橋研究室
取材・講演・執筆などに関するお問い合わせは、実践女子大学企画広報部広報室にお願いします。
MAIL:koho-ml[a]jissen.ac.jp